マーラー・コンプリート
生誕150周年を記念して
-最終更新日:2010年12月21日(火)-
このコーナーでは原則として曲目を一つ選んで多彩な指揮者のCDを取りあげるといった方式なのだが、これだけは別格として紹介したい。今年はマーラー生誕150周年という節目に当たり、安価でコンプリートアルバムが発売されているのだ。
マニュアルが英語であることを除けば、上記のグラモフォンのアルバムはCD18枚で定価6,500円、下のEMIのアルバムはCD16枚で定価5,660円である。これはもう超破格としか言いようがないのである。これをAmazonやHMVで購入したら実売価格はさらに下回る。やはり筆者超お勧めのCDである。
時代によって異なるヒット作曲家
音楽史からいうと、バロック時代のバッハ、ロマン派時代のベートーヴェンやモーツァルトは誰にでもなじみの深い音楽を作曲している。もうすぐ年末に流れるベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」は誰でも聞いたことがあるだろうし、ウィーンフィルが毎年1月1日に行うニューイヤーコンサートのポルカも子供が大好きだ。
しかし、マーラーは違う。分裂気質の前衛音楽を聞いているかのような交響曲7番「夜の歌」や葬送のシーンを思わせるファンファーレから始まる5番、抗い難い人生における運命を描いた6番「悲劇的」など、恐らくクラシックを始めたばかりの人が最初に聞いたら理解しにくいだろう。一般的に難解で、そして厭世的だと言われている。一方で、イエス・キリストの復活を描いた2番「復活」、強烈な人間肯定の意味付与がされている8番「千人の交響曲」が対照的であり、死と戦って作曲した9番はあらゆる芸術作品を凌駕する。
マーラーの解説が長くなったが、クラシックには時代によって売れる作曲家が異なる。第二次世界大戦の直後、日本で一番売れたクラシックのCDはベートーヴェンである。日本社会が戦争という悲劇を乗り越えるには、苦悩を表現しながらも暗から明へと必ず展開するベートーヴェンが最もふさわしかったのだ。その後、高度経済成長期に一番売れたのがモーツァルトである。ともすれば怠惰になりがちな民主主義の黄金期において苦しみを表現した音楽は誰も聞きたくない。それゆえ軽快で多幸感にあふれた音調モーツァルトが一番売れたのである。そして、バブル期以降の現在。この混迷期にマーラーの売り上げが世界的に伸びている。もはや伸びしろがない社会の閉塞感を、のた打ち回るような音調のマーラーが聴き手にカタルシスをもたらすのだ。
コンプリートアルバムの特色を簡単に
この二つのマーラー・コンプリートであるが、多くの歴史的な名演が含まれている。
まずは上のグラモフォン盤。目玉はメータ氏の2番「復活」、バーンスタインの5番、ショルティの8番「千人の交響曲」、カラヤンの9番である。これらはいずれも同演奏の世界的な名盤である。グラモフォンがすごいのは同じ演奏家のばかりもってくるのではなく、名指揮者の様々な演奏を多様に配置したこと。これで飽きない構成となっている。筆者もすべてをまだ聞けていないが、聞くたびに新しい発見がある。小澤征爾さんの「花の章」が入っているのも我々日本人には嬉しいことである。
そして下記のEMIの目玉は、テンシュテットの5番・8番、クレンペラーの2番・大地の歌、バルビローリの6番「悲劇的」、そしてサイモン・ラトルの音源が多く含まれていることである。歴史的な名演という観点ではグラモフォンが勝るかもしれないが、それでも多くの名演が含まれている。個人的に聞いて意外性があったのはバルビローリの6番。恐らくこの演奏で最もゆったりテンポの曲だろう。それが逆説的に重厚感を出している好例だと感じたのである。
このように、今年が終わってしまわないうちにマーラー生誕150周年を書くことができてよかった。今後恐らくマーラーの個別の交響曲ごとに名演を取りあげていくだろう。その時には詳細に触れたいと思っている。お楽しみに。
-最終更新日:2010年12月21日(火)-
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このコーナーでは原則として曲目を一つ選んで多彩な指揮者のCDを取りあげるといった方式なのだが、これだけは別格として紹介したい。今年はマーラー生誕150周年という節目に当たり、安価でコンプリートアルバムが発売されているのだ。
マニュアルが英語であることを除けば、上記のグラモフォンのアルバムはCD18枚で定価6,500円、下のEMIのアルバムはCD16枚で定価5,660円である。これはもう超破格としか言いようがないのである。これをAmazonやHMVで購入したら実売価格はさらに下回る。やはり筆者超お勧めのCDである。
時代によって異なるヒット作曲家
音楽史からいうと、バロック時代のバッハ、ロマン派時代のベートーヴェンやモーツァルトは誰にでもなじみの深い音楽を作曲している。もうすぐ年末に流れるベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」は誰でも聞いたことがあるだろうし、ウィーンフィルが毎年1月1日に行うニューイヤーコンサートのポルカも子供が大好きだ。
しかし、マーラーは違う。分裂気質の前衛音楽を聞いているかのような交響曲7番「夜の歌」や葬送のシーンを思わせるファンファーレから始まる5番、抗い難い人生における運命を描いた6番「悲劇的」など、恐らくクラシックを始めたばかりの人が最初に聞いたら理解しにくいだろう。一般的に難解で、そして厭世的だと言われている。一方で、イエス・キリストの復活を描いた2番「復活」、強烈な人間肯定の意味付与がされている8番「千人の交響曲」が対照的であり、死と戦って作曲した9番はあらゆる芸術作品を凌駕する。
マーラーの解説が長くなったが、クラシックには時代によって売れる作曲家が異なる。第二次世界大戦の直後、日本で一番売れたクラシックのCDはベートーヴェンである。日本社会が戦争という悲劇を乗り越えるには、苦悩を表現しながらも暗から明へと必ず展開するベートーヴェンが最もふさわしかったのだ。その後、高度経済成長期に一番売れたのがモーツァルトである。ともすれば怠惰になりがちな民主主義の黄金期において苦しみを表現した音楽は誰も聞きたくない。それゆえ軽快で多幸感にあふれた音調モーツァルトが一番売れたのである。そして、バブル期以降の現在。この混迷期にマーラーの売り上げが世界的に伸びている。もはや伸びしろがない社会の閉塞感を、のた打ち回るような音調のマーラーが聴き手にカタルシスをもたらすのだ。
コンプリートアルバムの特色を簡単に
この二つのマーラー・コンプリートであるが、多くの歴史的な名演が含まれている。
まずは上のグラモフォン盤。目玉はメータ氏の2番「復活」、バーンスタインの5番、ショルティの8番「千人の交響曲」、カラヤンの9番である。これらはいずれも同演奏の世界的な名盤である。グラモフォンがすごいのは同じ演奏家のばかりもってくるのではなく、名指揮者の様々な演奏を多様に配置したこと。これで飽きない構成となっている。筆者もすべてをまだ聞けていないが、聞くたびに新しい発見がある。小澤征爾さんの「花の章」が入っているのも我々日本人には嬉しいことである。
そして下記のEMIの目玉は、テンシュテットの5番・8番、クレンペラーの2番・大地の歌、バルビローリの6番「悲劇的」、そしてサイモン・ラトルの音源が多く含まれていることである。歴史的な名演という観点ではグラモフォンが勝るかもしれないが、それでも多くの名演が含まれている。個人的に聞いて意外性があったのはバルビローリの6番。恐らくこの演奏で最もゆったりテンポの曲だろう。それが逆説的に重厚感を出している好例だと感じたのである。
このように、今年が終わってしまわないうちにマーラー生誕150周年を書くことができてよかった。今後恐らくマーラーの個別の交響曲ごとに名演を取りあげていくだろう。その時には詳細に触れたいと思っている。お楽しみに。
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