消費税増税は必要かどうか
~財政再建をあきらめてはならない日本にとって~
-最終更新日:2011年1月9日(日)-
今回も1月7日の新聞にインスピレーションを得て掲載する。今度は読売新聞の1面「日本の改新」コーナー5回目、東京大学教授の伊藤隆敏氏のコラムである。
これを読んで筆者は痛快に感じた。なかなか国の台所事情を表ざたにして論を張れない識者が多い中で、端的に日本の財政事情を説いているからである。氏はこのように述べている。「財政赤字が今のままなら、国債の安定消化ができるのは最大であと5年ほどではないか」。それほどまでに日本は追い詰められている。それなのに政治はのんきだ。今年も埋蔵金のねん出とわずかばかりの無駄の削減に終わったのみで、国債発行額は税収を軽く超えている。抜本的な経費削減は達成されておらず、財政再建のめどは立たない。
これに対して筆者は原因が二つあると思う。一つは庶民の先を見る目のなさ、もう一つは政治の停滞である。前者に関しては、日本の国民があと数年、できれば10年消費税増税に対して許容的であれば、これほどまでの財政赤字はなかったということである。そして政治の停滞。こちらは庶民の許容性のなさに拍車をかけて、選挙に勝つために消費税増税を公約として打ち出すことができなかったという現実である。つまり、政治は国民をだまして選挙に勝とうとし、庶民は国の台所事情などいざ知らずというのが日本の置かれたこの10年の現状だったわけである。
あらかじめ述べておきたいが、政治の質は国民の質に比例する。政治の質を上げるには国民の政治に対する関心をあげてもっと参加的にならなければならない。いざ財政赤字になった国を立て直すには、国民に高い教養が求められるのである。これが失われた10年間だったのではないかと思う。責任は何も政治にばかりあるわけではない。
悲観的にならずとも、伊藤氏が指摘しているように、国債の95%を国内で引き受けていること、あと数年は余裕があることからここで踏ん張ればいいのである。ただし、消費税増税は避けて通れない。ある程度国の財政がわかる人間なら試算ができてしまうのだが、最終的には現段階より15%~20%の増税が必要だという。氏も述べているが、学識者や官僚はある程度この現実を知って前政権でも自民党に突き付けていたのだが、国民に許容性がなかった。これだけは国民が反省しなければならないことだと筆者は付け加えておきたい。
消費税増税にあたってもさまざまな工夫がある。伊藤氏が挙げているのが、①貿易の自由化とTPPへの参加、②少子化への対策、③消費税のインボイス式の導入、などをあげている。順に説明を加えていきたい。①については先日の記事でふれたとおりである。②については税収の観点から明示的である。フランスが少子化対策を大々的に行って合計特殊出生率を2以上に引き上げたことから、財政問題などが切迫した先進国の主要課題でもある。
③についてだが、これが消費税増税にとって国民の理解を得るのに非常に重要である。消費税増税は累進的な税とは違い、万人に共通して課せられる税である。したがって、高所得者ほど負担が軽く、低所得者ほど負担が重いとされる。これではますます住みにくい国になる一方である。そこで氏が提案するのが「インボイス」(税額票)方式である。生活必需品であるミルクやパン、コメには消費税がかからないという方式だ。筆者の知識だと、諸外国ではこれに加えて贅沢品・奢侈品により重い税をかける方式をとっている国も存在する。国民の理解を得るには必要不可欠だろう。
最後に、氏の著書について少し触れる。著者はインフレ目標といって、政府がインフレ率をどれだけ上昇させるかを目標として政策決定を行う方式を提唱している。それが冒頭の著書である。インフレターゲットという言葉をどこかで聞いたことがある方もおられるかもしれない。このデフレ状況下にあって、スパイラルに陥らないためにも、大胆な日銀の介入と財政政策が行われなければならない。日銀は2010年10月に包括緩和を決めたが、これも以前から学識者が提唱していたことだと伊藤氏は指摘する。今の日本、知識と国民の力を総動員して国を立て直す時期である。読者の皆さんにもこの意識を持っていただきたいというのが筆者の願いである。
-最終更新日:2011年1月9日(日)-
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今回も1月7日の新聞にインスピレーションを得て掲載する。今度は読売新聞の1面「日本の改新」コーナー5回目、東京大学教授の伊藤隆敏氏のコラムである。
これを読んで筆者は痛快に感じた。なかなか国の台所事情を表ざたにして論を張れない識者が多い中で、端的に日本の財政事情を説いているからである。氏はこのように述べている。「財政赤字が今のままなら、国債の安定消化ができるのは最大であと5年ほどではないか」。それほどまでに日本は追い詰められている。それなのに政治はのんきだ。今年も埋蔵金のねん出とわずかばかりの無駄の削減に終わったのみで、国債発行額は税収を軽く超えている。抜本的な経費削減は達成されておらず、財政再建のめどは立たない。
これに対して筆者は原因が二つあると思う。一つは庶民の先を見る目のなさ、もう一つは政治の停滞である。前者に関しては、日本の国民があと数年、できれば10年消費税増税に対して許容的であれば、これほどまでの財政赤字はなかったということである。そして政治の停滞。こちらは庶民の許容性のなさに拍車をかけて、選挙に勝つために消費税増税を公約として打ち出すことができなかったという現実である。つまり、政治は国民をだまして選挙に勝とうとし、庶民は国の台所事情などいざ知らずというのが日本の置かれたこの10年の現状だったわけである。
あらかじめ述べておきたいが、政治の質は国民の質に比例する。政治の質を上げるには国民の政治に対する関心をあげてもっと参加的にならなければならない。いざ財政赤字になった国を立て直すには、国民に高い教養が求められるのである。これが失われた10年間だったのではないかと思う。責任は何も政治にばかりあるわけではない。
悲観的にならずとも、伊藤氏が指摘しているように、国債の95%を国内で引き受けていること、あと数年は余裕があることからここで踏ん張ればいいのである。ただし、消費税増税は避けて通れない。ある程度国の財政がわかる人間なら試算ができてしまうのだが、最終的には現段階より15%~20%の増税が必要だという。氏も述べているが、学識者や官僚はある程度この現実を知って前政権でも自民党に突き付けていたのだが、国民に許容性がなかった。これだけは国民が反省しなければならないことだと筆者は付け加えておきたい。
消費税増税にあたってもさまざまな工夫がある。伊藤氏が挙げているのが、①貿易の自由化とTPPへの参加、②少子化への対策、③消費税のインボイス式の導入、などをあげている。順に説明を加えていきたい。①については先日の記事でふれたとおりである。②については税収の観点から明示的である。フランスが少子化対策を大々的に行って合計特殊出生率を2以上に引き上げたことから、財政問題などが切迫した先進国の主要課題でもある。
③についてだが、これが消費税増税にとって国民の理解を得るのに非常に重要である。消費税増税は累進的な税とは違い、万人に共通して課せられる税である。したがって、高所得者ほど負担が軽く、低所得者ほど負担が重いとされる。これではますます住みにくい国になる一方である。そこで氏が提案するのが「インボイス」(税額票)方式である。生活必需品であるミルクやパン、コメには消費税がかからないという方式だ。筆者の知識だと、諸外国ではこれに加えて贅沢品・奢侈品により重い税をかける方式をとっている国も存在する。国民の理解を得るには必要不可欠だろう。
最後に、氏の著書について少し触れる。著者はインフレ目標といって、政府がインフレ率をどれだけ上昇させるかを目標として政策決定を行う方式を提唱している。それが冒頭の著書である。インフレターゲットという言葉をどこかで聞いたことがある方もおられるかもしれない。このデフレ状況下にあって、スパイラルに陥らないためにも、大胆な日銀の介入と財政政策が行われなければならない。日銀は2010年10月に包括緩和を決めたが、これも以前から学識者が提唱していたことだと伊藤氏は指摘する。今の日本、知識と国民の力を総動員して国を立て直す時期である。読者の皆さんにもこの意識を持っていただきたいというのが筆者の願いである。
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