日本という諸国家併存社会 ほか
~山崎正和氏の文明論より~
-最終更新日:2011年1月11日(火)-
本日も読売新聞、朝日新聞両新聞からの記事である。まずは1月10日(月)の読売新聞1面、「日本の改新」山崎正和氏のコラムより。
独自の文明論を展開している氏の理論は面白い。日本の歴史的な文化それ自体が構造的にヨーロッパ社会と似ているということである。例えばローマ帝国がヨーロッパ各地を自治的な統治形態により合理的に支配したように、日本も江戸時代に地方分権を半ば認めていたというものだ。これを可能にしたのは、文字が庶民向けであったことなどにより社会が縦につながったからだという。
このようなヨーロッパ社会のいわば諸国家併存社会がもたらすのは、歴史的経緯により時間がたてばいずれは民主主義社会に到達するというものである。知識の高度化はより国民を高度な民主主義へと志向させるからである。この点、アメリカは非常に強い。知的財産を育む大学が圧倒的な力を持っているからだ。日本でも飛びぬけて優秀な教授達がアメリカの大学を志向するのが近年顕著であることからわかるだろう。
そして、山崎氏は現状の国際情勢において、日本はこのアメリカと同様に「知識基盤社会」を目指すしかないと指摘する。そのためには民主主義のより緻密な高度化が必要であり、これが実現して初めて世界最高レベルの知識社会が形成されることは間違いない。しかし、既存の日本社会では弱みを含んでいる部分もたくさん存在する。この点で山崎氏が指摘しているのが、教育制度の改革と大衆社会の悪化への対応である。
まず前者である。高度経済成長期の横並びの教育では、知識社会のコアとなる人材を育てきれないという点が挙げられる。筆者が京都大学に在籍していた時に、3年次で飛び級で大学院に入学する人もいた。このような選抜的な教育が行われないと、せっかくの世界的な才能を育てきれない可能性があるのである。
また、大衆社会の悪化に関しては皆さんも強く感じられているだろう。情報発信能力やそのモラルに欠ける人物がごみのように垂れ流すインターネットの情報によって、社会に誤謬だらけの情報が蔓延することを。これは民主主義の大きな危機なのだということをご自覚いただきたい。この点、既存メディアの権能の復活こそが民主主義増進の大きなポイントだということは以前から指摘している通りなのである。
朝日新聞「阿弥陀仏 祈り包んで」
次は朝日新聞の10面である。1面で浄土宗を開いた法然上人の弟子、源智が作成したとされる「阿弥陀如来立像」の特集が組まれている。ちなみに筆者はほぼ無神論者で、自分の家の宗派も度忘れするほどである。筆者の実家は真言宗だそうだ。始祖は空海である。
その真言宗の寺になぜか存在していたこの像が、法然上人800回忌を記念して浄土宗の寺に戻されたという。このことについて、伊藤唯真浄土門主や中井真孝佛教大教授の解説が記事に組まれている。仏教の中で念仏を唯一極楽浄土に行ける行として位置付けた法然上人は、民衆から絶大な支持を得るとともに、当時の政権に敵視され迫害を受けたという。
その法然上人を慕った弟子の源智が建立したとされるこの像であるが、内部には4万人以上の名前が記された文書が入っていたのが発見されている。1979年のことである。この中には、後白河法皇、後鳥羽上皇、平清盛、源頼朝の名前もあり、まさに最重要文化財と呼ぶにふさわしいだろう。記事には、仏像ガール氏の対談、土井通弘氏や安嶋紀昭氏の解説も含まれており、興味深い内容である。
ちなみに、なぜ五木寛之氏の「親鸞」を掲載したかというと、親鸞は法然の弟子だからだ。ベストセラーになったこの小説、筆者も読んだが非常に面白い。誰が読んでも痛快な親鸞の生涯に没入できる内容になっている。波乱万丈の親鸞の生涯を独自の視点で描いたものだ。吉川英二氏による小説とは一線を画すが、恋愛的な要素も盛りだくさんであり、大河ドラマにしても面白いのではないだろうかと思う。ちなみに親鸞が始祖なのは浄土真宗なのでお間違いのないよう。
また、親鸞も法然上人と同様に当時の民衆の絶大な支持を受けた。時代が閉塞的な状況に陥り、仏教界も特権階級の救済のみ考えるようになっていた際に、比叡山から自ら下山して民衆を救おうとしたからである。流刑を覚悟した親鸞の行動はどのような現象を生み出したか。それは皆さんが実際にこの書籍を読んで判断してもらいたい。人間の業とその救済をここまで描いた小説は数少ない。無神論者の私でも強く感動を覚えたのを覚えている。
白鵬関、新年の意気込みを語る
再びこの日の読売新聞であるが、16面に「角界再生へ『覚悟の年』」と題したこのコラムが掲載されている。記事で放駒親方がまずこのように述べている。
新生の年となるように全力を尽くす。
昨年の不祥事を一切断ち切る覚悟を込めて述べたのだろう。そして同じような気持ちを込めて白鵬関はこのように述べている。
新たな挑戦、道のりが始まる。
(両陛下と)同じ屋根の下で、いい相撲を取れたことがうれしい。
昨年、双葉山関の69連勝に挑んだが、歴代2位63勝にとどまった。これだけでも相当な成績であるが、1位を達成できなかったことに対する悔やみは想像以上のものがあるだろう。それでも白鵬関が凄いのは、その後一切未練を断ち切って連勝を続けたことである。
筆者はこのような白鵬関の人格を尊敬する。相撲で強いことではない。むしろ、この人格の高潔さ、人柄の良さが心技体を支えているのだろう。白鵬関は再び新たな挑戦を始めた。同様な気持ちで私も毎日ブログの更新を続けていきたいと思っている。常に白鵬関を応援している。今年も頑張ってほしいものである。
-最終更新日:2011年1月11日(火)-
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本日も読売新聞、朝日新聞両新聞からの記事である。まずは1月10日(月)の読売新聞1面、「日本の改新」山崎正和氏のコラムより。
独自の文明論を展開している氏の理論は面白い。日本の歴史的な文化それ自体が構造的にヨーロッパ社会と似ているということである。例えばローマ帝国がヨーロッパ各地を自治的な統治形態により合理的に支配したように、日本も江戸時代に地方分権を半ば認めていたというものだ。これを可能にしたのは、文字が庶民向けであったことなどにより社会が縦につながったからだという。
このようなヨーロッパ社会のいわば諸国家併存社会がもたらすのは、歴史的経緯により時間がたてばいずれは民主主義社会に到達するというものである。知識の高度化はより国民を高度な民主主義へと志向させるからである。この点、アメリカは非常に強い。知的財産を育む大学が圧倒的な力を持っているからだ。日本でも飛びぬけて優秀な教授達がアメリカの大学を志向するのが近年顕著であることからわかるだろう。
そして、山崎氏は現状の国際情勢において、日本はこのアメリカと同様に「知識基盤社会」を目指すしかないと指摘する。そのためには民主主義のより緻密な高度化が必要であり、これが実現して初めて世界最高レベルの知識社会が形成されることは間違いない。しかし、既存の日本社会では弱みを含んでいる部分もたくさん存在する。この点で山崎氏が指摘しているのが、教育制度の改革と大衆社会の悪化への対応である。
まず前者である。高度経済成長期の横並びの教育では、知識社会のコアとなる人材を育てきれないという点が挙げられる。筆者が京都大学に在籍していた時に、3年次で飛び級で大学院に入学する人もいた。このような選抜的な教育が行われないと、せっかくの世界的な才能を育てきれない可能性があるのである。
また、大衆社会の悪化に関しては皆さんも強く感じられているだろう。情報発信能力やそのモラルに欠ける人物がごみのように垂れ流すインターネットの情報によって、社会に誤謬だらけの情報が蔓延することを。これは民主主義の大きな危機なのだということをご自覚いただきたい。この点、既存メディアの権能の復活こそが民主主義増進の大きなポイントだということは以前から指摘している通りなのである。
朝日新聞「阿弥陀仏 祈り包んで」
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次は朝日新聞の10面である。1面で浄土宗を開いた法然上人の弟子、源智が作成したとされる「阿弥陀如来立像」の特集が組まれている。ちなみに筆者はほぼ無神論者で、自分の家の宗派も度忘れするほどである。筆者の実家は真言宗だそうだ。始祖は空海である。
その真言宗の寺になぜか存在していたこの像が、法然上人800回忌を記念して浄土宗の寺に戻されたという。このことについて、伊藤唯真浄土門主や中井真孝佛教大教授の解説が記事に組まれている。仏教の中で念仏を唯一極楽浄土に行ける行として位置付けた法然上人は、民衆から絶大な支持を得るとともに、当時の政権に敵視され迫害を受けたという。
その法然上人を慕った弟子の源智が建立したとされるこの像であるが、内部には4万人以上の名前が記された文書が入っていたのが発見されている。1979年のことである。この中には、後白河法皇、後鳥羽上皇、平清盛、源頼朝の名前もあり、まさに最重要文化財と呼ぶにふさわしいだろう。記事には、仏像ガール氏の対談、土井通弘氏や安嶋紀昭氏の解説も含まれており、興味深い内容である。
ちなみに、なぜ五木寛之氏の「親鸞」を掲載したかというと、親鸞は法然の弟子だからだ。ベストセラーになったこの小説、筆者も読んだが非常に面白い。誰が読んでも痛快な親鸞の生涯に没入できる内容になっている。波乱万丈の親鸞の生涯を独自の視点で描いたものだ。吉川英二氏による小説とは一線を画すが、恋愛的な要素も盛りだくさんであり、大河ドラマにしても面白いのではないだろうかと思う。ちなみに親鸞が始祖なのは浄土真宗なのでお間違いのないよう。
また、親鸞も法然上人と同様に当時の民衆の絶大な支持を受けた。時代が閉塞的な状況に陥り、仏教界も特権階級の救済のみ考えるようになっていた際に、比叡山から自ら下山して民衆を救おうとしたからである。流刑を覚悟した親鸞の行動はどのような現象を生み出したか。それは皆さんが実際にこの書籍を読んで判断してもらいたい。人間の業とその救済をここまで描いた小説は数少ない。無神論者の私でも強く感動を覚えたのを覚えている。
白鵬関、新年の意気込みを語る
再びこの日の読売新聞であるが、16面に「角界再生へ『覚悟の年』」と題したこのコラムが掲載されている。記事で放駒親方がまずこのように述べている。
新生の年となるように全力を尽くす。
昨年の不祥事を一切断ち切る覚悟を込めて述べたのだろう。そして同じような気持ちを込めて白鵬関はこのように述べている。
新たな挑戦、道のりが始まる。
(両陛下と)同じ屋根の下で、いい相撲を取れたことがうれしい。
昨年、双葉山関の69連勝に挑んだが、歴代2位63勝にとどまった。これだけでも相当な成績であるが、1位を達成できなかったことに対する悔やみは想像以上のものがあるだろう。それでも白鵬関が凄いのは、その後一切未練を断ち切って連勝を続けたことである。
筆者はこのような白鵬関の人格を尊敬する。相撲で強いことではない。むしろ、この人格の高潔さ、人柄の良さが心技体を支えているのだろう。白鵬関は再び新たな挑戦を始めた。同様な気持ちで私も毎日ブログの更新を続けていきたいと思っている。常に白鵬関を応援している。今年も頑張ってほしいものである。
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