黒澤明監督「夢」
監督:黒澤明
出演:賠償美津子 寺尾聡 マーティン・スコセッシ いかりや長介 笠智衆ほか (1990年 日本)
-最終更新日:2010年10月13日(水)-
今回は日本の黒澤明監督にチャレンジしてみたいと思います。今回ご紹介するのは「夢」という映画です。
この映画、自分と同世代で、昔の土曜洋画劇場や日曜ロードショーをよく見ていた方ならご覧になった人も多いのではないでしょうか。自分が中高校生の時代に何度も放映されたのを覚えています。当時若かった私を強い好奇心をもって幻想的な世界に惹き込む映画でした。
物語は、主人公が見た「夢」です。8話からなるオムニバス構成で、当初の2話は主人公「私」の幼少時代、残り6話は青年時代以降ということになっています。ここでは、各話ごとに簡単な解説をしてみたいと思います。
【第1話 日照り雨】
幼い「私」が森に遊びに出かけたとき、狐の嫁入りを目の当たりにする。好奇心から見入ってしまうが、狐に目をつけられ… 狐の嫁入りの行列の映像描写が見る者を引き付ける。
【第2話 桃畑】
5歳ごろの「私」にしか見えない少女。そのあとを追いかけると、桃畑のあった草むらにひな人形の格好をした人々がいた。桃の節句にちなんだ話の展開。あまりにも美しすぎる雅楽と舞のが少年に対して行われ、桃の花びらが吹き荒れる。
【第3話 雪あらし】
日本の雪女にちなんだ挿話。雪山で難行軍を続ける日本兵が力果てたとき、雪女が傍に座り安らかに眠るよう誘いかける。惑いを振り切ったとき、奇跡は起きる。
【第4話 トンネル】
「私」が歩いているとき、トンネルに差し掛かる。そのとき、猛犬が現れ吠えつけられる。トンネルを抜けると死んだはずの兵士が現れ、「本当に死んだのか」と問いかける。戦争で生き残った「私」の良心の呵責を表現した挿話。
【第5話 鴉】
有名なヴィンセント・ヴァン・ゴッホの「アルルのはね橋」を忠実に再現したシーンから始まる。美術好きな「私」はゴッホの世界に没入して絵画の中を渡り歩く。マーティン・スコセッシがゴッホを好演している。
【第6話 赤富士】
放射能汚染によって大爆発を起こした富士山。人々が逃げまどっている。海岸線にたどり着くと、逃げてきた人はほとんど海の中に身を投げていた。着色された3色の放射能物質が「私」に迫る。
【第7話 鬼哭】
放射能汚染の果てに、苦しみもがきながらも死ねない人々が鬼へと変化した。この2話は放射能汚染に対する警告というメッセージが強く盛り込まれている。第7話では、いかりや長介が一本角の鬼を好演している。
【第8話 水車のある村】
「私」が「水車のある村」にたどり着いたとき、そこは科学を捨て、人の死を自然に回帰するものとして喜び祝う風習の村だった。構図から配色まですべてを緻密に計算された映像美にぜひ注目していただきたい。全ての方に見て欲しい挿話。
この映画は、カラー映画が少ない黒澤監督の作品にあって、もっとも映像が美しい映画なのではないかと思います。黒澤監督は、スタンリー・キューブリックやアンドレイ・タルコフスキーらと並ぶ世界の巨匠です。この二人の監督も極めて美しい映像を残しています。
キューブリック監督の「バリー・リンドン」は、演劇関係者のバイブルと呼ばれるくらい衣装から完璧に再現され、全てのシーンで完璧な構図で撮影されています。タルコフスキー監督も水や雨、火などの映像言語を象徴的に用いて映像を構成する映像詩人と呼ばれています。この三人の映画監督を「世界三大完璧主義監督」と形容することもあるようです。
いつか、ちゃんとした言葉でこれらの映画をご紹介できればと思っています。学生時代に背伸びをして見た最高峰が、現在の私の財産になっています。
出演:賠償美津子 寺尾聡 マーティン・スコセッシ いかりや長介 笠智衆ほか (1990年 日本)
-最終更新日:2010年10月13日(水)-
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今回は日本の黒澤明監督にチャレンジしてみたいと思います。今回ご紹介するのは「夢」という映画です。
この映画、自分と同世代で、昔の土曜洋画劇場や日曜ロードショーをよく見ていた方ならご覧になった人も多いのではないでしょうか。自分が中高校生の時代に何度も放映されたのを覚えています。当時若かった私を強い好奇心をもって幻想的な世界に惹き込む映画でした。
物語は、主人公が見た「夢」です。8話からなるオムニバス構成で、当初の2話は主人公「私」の幼少時代、残り6話は青年時代以降ということになっています。ここでは、各話ごとに簡単な解説をしてみたいと思います。
【第1話 日照り雨】
幼い「私」が森に遊びに出かけたとき、狐の嫁入りを目の当たりにする。好奇心から見入ってしまうが、狐に目をつけられ… 狐の嫁入りの行列の映像描写が見る者を引き付ける。
【第2話 桃畑】
5歳ごろの「私」にしか見えない少女。そのあとを追いかけると、桃畑のあった草むらにひな人形の格好をした人々がいた。桃の節句にちなんだ話の展開。あまりにも美しすぎる雅楽と舞のが少年に対して行われ、桃の花びらが吹き荒れる。
【第3話 雪あらし】
日本の雪女にちなんだ挿話。雪山で難行軍を続ける日本兵が力果てたとき、雪女が傍に座り安らかに眠るよう誘いかける。惑いを振り切ったとき、奇跡は起きる。
【第4話 トンネル】
「私」が歩いているとき、トンネルに差し掛かる。そのとき、猛犬が現れ吠えつけられる。トンネルを抜けると死んだはずの兵士が現れ、「本当に死んだのか」と問いかける。戦争で生き残った「私」の良心の呵責を表現した挿話。
【第5話 鴉】
有名なヴィンセント・ヴァン・ゴッホの「アルルのはね橋」を忠実に再現したシーンから始まる。美術好きな「私」はゴッホの世界に没入して絵画の中を渡り歩く。マーティン・スコセッシがゴッホを好演している。
【第6話 赤富士】
放射能汚染によって大爆発を起こした富士山。人々が逃げまどっている。海岸線にたどり着くと、逃げてきた人はほとんど海の中に身を投げていた。着色された3色の放射能物質が「私」に迫る。
【第7話 鬼哭】
放射能汚染の果てに、苦しみもがきながらも死ねない人々が鬼へと変化した。この2話は放射能汚染に対する警告というメッセージが強く盛り込まれている。第7話では、いかりや長介が一本角の鬼を好演している。
【第8話 水車のある村】
「私」が「水車のある村」にたどり着いたとき、そこは科学を捨て、人の死を自然に回帰するものとして喜び祝う風習の村だった。構図から配色まですべてを緻密に計算された映像美にぜひ注目していただきたい。全ての方に見て欲しい挿話。
この映画は、カラー映画が少ない黒澤監督の作品にあって、もっとも映像が美しい映画なのではないかと思います。黒澤監督は、スタンリー・キューブリックやアンドレイ・タルコフスキーらと並ぶ世界の巨匠です。この二人の監督も極めて美しい映像を残しています。
キューブリック監督の「バリー・リンドン」は、演劇関係者のバイブルと呼ばれるくらい衣装から完璧に再現され、全てのシーンで完璧な構図で撮影されています。タルコフスキー監督も水や雨、火などの映像言語を象徴的に用いて映像を構成する映像詩人と呼ばれています。この三人の映画監督を「世界三大完璧主義監督」と形容することもあるようです。
いつか、ちゃんとした言葉でこれらの映画をご紹介できればと思っています。学生時代に背伸びをして見た最高峰が、現在の私の財産になっています。
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