アンドレイ・タルコフスキー監督「サクリファイス」 (2010評)
監督:アンドレイ・タルコフスキー
出演:エルランド・ヨセフソン スーザン・フリートウッド 他
(1986年 スウェーデン・フランス)
-最終更新日:2010年11月4日(木)-
今回はこの難解な映画に挑戦してみたいと思います。私が映画を見たなかでも最も芸術的で美しいと感じてきたのがロシアのアンドレイ・タルコフスキー監督です。同監督は「惑星ソラリス」や「鏡」、「ノスタルジア」など数々の名作を撮影していますが、私はこの「サクリファイス」が一番分かりやすく心に残っています。今回はこの作品にチャレンジしてみたいと思います。
舞台はスカンジナビア半島のスウェーデン。舞台俳優の名声を捨てたアレクサンデルは妻のアデライデらと暮らしている。冒頭にバッハの「マタイ受難曲」が流れた後、アレクサンデルが木を植えるシーンから始まる。喉の手術をして口がきけない息子が寄り添い、アレクサンデルの言葉に耳を傾ける。アレクサンデルは、ある修道士が3年間枯れた木に水をやり続けて甦らせた話をその"子供"に聞かせる。このようなシーンから映画は始まる。
タルコフスキー監督はロシア出身ですが、晩年はスウェーデンでこの映画を撮影していました。映画の終始に核兵器に対する反対のメッセージが込められていて、作品を通底しています。核戦争の恐怖におののく家族ですが、主人公のアレクサンデルは愛する者が救われるようにと願いを込めて「犠牲=サクリファイス」を捧げます。その犠牲とは何なのでしょうか。実際にご覧になって確かめていただきたいと思います。
今10年ぶりくらいでしょうか。この作品のDVDを鑑賞しています。解像度が高いとかそのような意味ではなく、恐らく至上最も美しい詩的な映像美を誇る監督の作品です。この映画においても北欧特有の描写が美し過ぎます。例えば、途中から白夜の中でのモノクロに近いシーンが続きますが、陰影が極めてくっきりと浮かび上がるようで、むしろこの方が人間の生々しさが強調されています。
さらに、タルコフスキー監督は、独特の映像言語で映画を構成することで有名です。その映像言語は水の表現に際立って現れています。映画の途中に廃墟となった街のシーンが挿入されますが、そこで荒れ果てた横断歩道に水が流れます。この他にも火や雨といったシーンを効果的に織り交ぜることで哲学的な意味を付与させています。なお、黒澤明監督の「夢」のラストに水面に藻がたゆたうシーンがありますが、これは個人的にタルコフスキー監督へのオマージュなのではないかと学生時代に考えていました。
タルコフスキー監督は日本の黒澤明監督の作品に傾倒していたとされ、数々のエピソードが残されています。例えば、惑星ソラリスの未来都市の場面は東京の首都高速であり、タルコフスキー監督が泊まっていたホテルから黒澤監督の事務所までの道のりと言われています。また、音楽家の武満徹氏は同監督に対するオマージュとして弦楽合奏曲「ノスタルジア」を作曲しました。まさに芸術は国際的な壁をいともたやすく乗り越えるのです。
最後に、ロシアの芸術的な音楽を、なぜこれをもっと早く聴かなかったのかという私のエピソードをご紹介します。自分は今ではかなりのクラシックファンですが、現在でも反抗期なのか、父や母の聞いたものは絶対に聞かないという癖がついてしまっています。母は大学時代にショスタコーヴィチの交響曲第5番を聴いて、それ以来一番好きな曲になったそうです。勿体ないことに、自分はこれを長い間聴いていませんでした。
ようやく聴いてみて、その演奏に驚きました。やはり現在活躍中の世界屈指の指揮者であると実感した次第です。氏は豪快な演奏で有名ですが、この演奏を聴かない自分は相当な損をしていたことになります。日本でもおなじみの指揮者で、NHK交響楽団にも客演のために来日しています。そういえば、日本のバレリストの留学先の第一候補はロシアと相場が決まっていますし、マリインスキー劇場管弦楽団の来演コマーシャルを目にされたことがある方も多いのではないかと思います。
どうも偏向の強い筆者のクラシック趣味ですが、ゲルギエフ氏を検索したら「シェエラザード」では世界的に名演のCDがあったり、近年ではマーラーの録音を順次開始しているようです。マーラーと言えばテンシュテットと決め込んでいましたが、一度は聞いておかなければならないと思っている昨今です。
出演:エルランド・ヨセフソン スーザン・フリートウッド 他
(1986年 スウェーデン・フランス)
-最終更新日:2010年11月4日(木)-
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今回はこの難解な映画に挑戦してみたいと思います。私が映画を見たなかでも最も芸術的で美しいと感じてきたのがロシアのアンドレイ・タルコフスキー監督です。同監督は「惑星ソラリス」や「鏡」、「ノスタルジア」など数々の名作を撮影していますが、私はこの「サクリファイス」が一番分かりやすく心に残っています。今回はこの作品にチャレンジしてみたいと思います。
舞台はスカンジナビア半島のスウェーデン。舞台俳優の名声を捨てたアレクサンデルは妻のアデライデらと暮らしている。冒頭にバッハの「マタイ受難曲」が流れた後、アレクサンデルが木を植えるシーンから始まる。喉の手術をして口がきけない息子が寄り添い、アレクサンデルの言葉に耳を傾ける。アレクサンデルは、ある修道士が3年間枯れた木に水をやり続けて甦らせた話をその"子供"に聞かせる。このようなシーンから映画は始まる。
タルコフスキー監督はロシア出身ですが、晩年はスウェーデンでこの映画を撮影していました。映画の終始に核兵器に対する反対のメッセージが込められていて、作品を通底しています。核戦争の恐怖におののく家族ですが、主人公のアレクサンデルは愛する者が救われるようにと願いを込めて「犠牲=サクリファイス」を捧げます。その犠牲とは何なのでしょうか。実際にご覧になって確かめていただきたいと思います。
今10年ぶりくらいでしょうか。この作品のDVDを鑑賞しています。解像度が高いとかそのような意味ではなく、恐らく至上最も美しい詩的な映像美を誇る監督の作品です。この映画においても北欧特有の描写が美し過ぎます。例えば、途中から白夜の中でのモノクロに近いシーンが続きますが、陰影が極めてくっきりと浮かび上がるようで、むしろこの方が人間の生々しさが強調されています。
さらに、タルコフスキー監督は、独特の映像言語で映画を構成することで有名です。その映像言語は水の表現に際立って現れています。映画の途中に廃墟となった街のシーンが挿入されますが、そこで荒れ果てた横断歩道に水が流れます。この他にも火や雨といったシーンを効果的に織り交ぜることで哲学的な意味を付与させています。なお、黒澤明監督の「夢」のラストに水面に藻がたゆたうシーンがありますが、これは個人的にタルコフスキー監督へのオマージュなのではないかと学生時代に考えていました。
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タルコフスキー監督は日本の黒澤明監督の作品に傾倒していたとされ、数々のエピソードが残されています。例えば、惑星ソラリスの未来都市の場面は東京の首都高速であり、タルコフスキー監督が泊まっていたホテルから黒澤監督の事務所までの道のりと言われています。また、音楽家の武満徹氏は同監督に対するオマージュとして弦楽合奏曲「ノスタルジア」を作曲しました。まさに芸術は国際的な壁をいともたやすく乗り越えるのです。
最後に、ロシアの芸術的な音楽を、なぜこれをもっと早く聴かなかったのかという私のエピソードをご紹介します。自分は今ではかなりのクラシックファンですが、現在でも反抗期なのか、父や母の聞いたものは絶対に聞かないという癖がついてしまっています。母は大学時代にショスタコーヴィチの交響曲第5番を聴いて、それ以来一番好きな曲になったそうです。勿体ないことに、自分はこれを長い間聴いていませんでした。
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ようやく聴いてみて、その演奏に驚きました。やはり現在活躍中の世界屈指の指揮者であると実感した次第です。氏は豪快な演奏で有名ですが、この演奏を聴かない自分は相当な損をしていたことになります。日本でもおなじみの指揮者で、NHK交響楽団にも客演のために来日しています。そういえば、日本のバレリストの留学先の第一候補はロシアと相場が決まっていますし、マリインスキー劇場管弦楽団の来演コマーシャルを目にされたことがある方も多いのではないかと思います。
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どうも偏向の強い筆者のクラシック趣味ですが、ゲルギエフ氏を検索したら「シェエラザード」では世界的に名演のCDがあったり、近年ではマーラーの録音を順次開始しているようです。マーラーと言えばテンシュテットと決め込んでいましたが、一度は聞いておかなければならないと思っている昨今です。
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